ロールキャベツはトマト味

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面白くないわらび餅

関西弁で「しょうもない」という言葉がある。地域にもよるが、頻繁に使われる言葉なので、漫画やドラマなどで聞いたことのある人も多いだろう。
実用日本語表現辞典によれば、『「仕様もない」(しようもない)が変化した表現で、くだらない。どうでもいい。ばかばかしい。瑣末な。といった意味合いで用いられる表現。「しょうもない」と言うことが多い。』らしい。いやいや、ちょっと待ってほしい。ここに、「面白くない」の意味を足してくださいと関西人である私は叫ぶ。「何しょうもないこと言っとんねん。」や「しょうもなっ。」の言葉には確実に「面白くない」の意味が含まれるだろうからだ。

面白くない。つまらない。しょうもない。といった言葉からは少しばかりネガティブな感情と共に使われることが多い。しかし、これらの言葉たちが、ほんのちょっとだけ救われるジャンルがある。食事である。見た目麗しいパフェや血の滴るようなステーキ、流行りの高級食パンなどなど、刺激的で面白そうなグルメは世の中に沢山あるが、それ以上に沢山あって世の中の人を支えているのが「面白くない食事」だろう。いつもの納豆ご飯、いつものスープとパン、いつもの食堂のカレー…ハレの日よりもケの日の方が圧倒的に多いのだ。いつものご飯、いつもの味、見栄も飾り気もない食事は、どっしりと平然とした顔で人々の生活を過ぎていく。

さて、私の中で1番面白くない、もとい、しょうもない食べ物の話をしよう。わらび餅である。夏が近づくと和菓子コーナーに並べられるあのパック詰めされたわらび餅のことで、歴史ある厳かな和菓子屋さんのわらび餅のことではない。あの水色のパッケージにギュウギュウに詰められたわらび餅ときな粉を見ると「おぉ、もうそんな季節か。」とワクワクする。そして暑いシーズン中にいつも1つや2つほど買って食べてみるのだが、美味しくない。違う。味気がないと言った方がいいのかもしれない。きな粉をたっぷりとつけて食べては見るものの、わらび餅単体の味はほんのりとするだけだ。うーん、美味しくはない。でもこれがいい。なんというか、「美味しくはない」のが「美味しい」のだ。食べてみて特段驚きも喜びもないこの味に非常に安心感を覚える。何十年もの間、素知らぬ顔をして商品棚に並んでいる、そんな高くないお値段のわらび餅に敬礼までしたくなる。来年もよろしくと思いながら今年も購入した。もしかしたら、私、わらび餅のことが好きなのかもしれない。

「あぁ、これこれ。この味。このしょうもない味がええねん。」

暑くなってくる季節にこうして笑いながらわらび餅を食べるのが、私のとっておきの毎年の楽しみである。