ロールキャベツはトマト味

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ちらし寿司と宝塚歌劇

今から10年以上も前の話になる。母が、紙袋いっぱいのビデオテープを家に運んできた。パッケージを手に取ってみてみると、どれもこれも「宝塚歌劇」と書いてあり、濃い化粧をした役者がバンと載っている。なんだこれは。まだ10代前半の私は日々、テレビゲームやら部活動やらに精を出している最中で、「宝塚歌劇団」についてボンヤリとしか知らなかった。なんとなく、「ベルばらのアレ」とか「SMAPがコントで真似してたアレ」くらいの知識はあったかもしれない。失礼な話である。

ふーん、誰から借りてきたの。へー。あの人、タカラヅカ好きだったんだ。親戚の1人で、とても背が高く、いつも髪を短くしているおばさん。スタイルがよく、「シュッとしている」という言葉がよく似合うが、丸顔で顔をクシャッとして笑う可愛らしさとカッコいいが合わさった人。仮にAさんとしておく。

母が「少し興味がある」と、その人に言うと「ならどうぞ。」と大量に渡してくれたらしい。

「それにしてもこの量はすごくない?」

紙袋はパンパンである。持ち上げてみると底が少しばかり膨らんでいるのが確認できた。明らかにキャパオーバー、入れすぎだ。これでは何から見ればいいのか分からないではないか。なんと、ビデオテープだけではなく、パンフレットやビジュアルブックなどの関連書籍も入っている。

「これが面白いらしいよ。」

と母が手に取ったのは、「エリザベート 愛と死の輪舞」であった。忘れもしない。2000年花組公演のものである。

見た。ハマった。借りてきた母よりも私がハマった。毎日のように見た。いや、文字通り毎日見た。歴史絵巻のような壮大な物語に絡められた「死」との恋愛模様、豪華絢爛な舞台衣装、音楽の素晴らしさ。それからというもの、借りてきたビデオは全部見尽くし、本も穴が開くほど読み尽くし、「次は何を借りればいいの?」と、Aさんにねだるくらいにまでなった。オタクの完成である。そんな私の様子を見て、

「よし、ならば連れていってやろう。」

と、Aさんが、私を宝塚大劇場に連れていってくれたのは、そこから1ヶ月後のことである。早すぎる。

高速バスを乗って、電車を乗り継ぎ、いざ、宝塚大劇場へ。と思いきや、

「お昼ご飯を買って行こうか。」

と、駅直結の阪急百貨店に連れて行かれた。あれ?外で食べないの?そう思いながら、ついていく。お弁当売り場の前で立ち止まるAさん、ちらし寿司を買ってくれた。嬉しい。

 

宝塚大劇場へ向かう。入る。

開演。幕間。

 

ガサガサと大勢の観客が、各々買ってきたらしいサンドイッチやらお弁当やらと取り出し始める。私もちらし寿司をいただく、手のひらを広げたくらいの大きさの八角形の弁当には、海老やら錦糸卵やらがギッシリと詰め込まれている。チラホラと見えるイクラも嬉しい。割り箸を割ってパクパク食べた。少し甘めの酢飯がとても美味しい。硬めに炊かれているのかべちゃっとせずに、酢飯を箸で持つとパラっとほぐれるほどだった。煮汁がギュッと染みた椎茸も好きなので沢山入っていて心が弾んだ。あぁ、美味しかった。二幕も楽しみ。

 

終演。

 

初めて肉眼で見た宝塚はすごかった。ビデオでは気づかなかったが、意外とバタバタと足音や人が移動する音がするのだなと思ったことをよく覚えている。そして、ビデオテープで見るよりも100倍以上、華やかで煌びやか、何より、とても美しかった。胸がつまるような感覚を覚えるほど、楽しかった。

 

パック詰めされたちらし寿司を目にしたとき、いつも私は、宝塚大劇場に初めて足を運んだことを思い出す。そういえば、あそこまで「客席内での飲食可」な劇場は宝塚くらいなのでは。