ロールキャベツはトマト味

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ハゲ富豪

タイトルを見て1人で笑ってしまった。ハゲとはカワハギの愛称である。カワハギとはなんぞ?と思う方に解説しておくと、白身魚でフグとヒラメの間のような食感と味を持つ食用魚だ。カワハギにも色々と種類はあるが、どれも皮が強く、力を込めて皮を引っ張るとビーッと一気に剥がれること(名前の由来)や可愛らしいおちょぼ口が特徴である。たまにスーパーの魚売りコーナーでも見かけるので是非これかと観察してほしい。

さて、このカワハギ、もといハゲ(行儀が悪いのはわかってはいるが、20数年間この愛称で慣れ親しんでいるのでこう呼ばずにはいられない)であるが、私の好物でもある。個人的な好きな魚ランキングのベスト3には余裕で入る。肝が大変美味で、濃厚な旨味とトロリとした食感に甘味まで感じられるのだ。この肝を包丁で細かく叩いてポン酢で和えたものを、刺身と食べるともう美味いのなんの。そばに日本酒があれば最高。なくても最高。ちなみに煮付けも美味しい。そしてそしてハゲの肝は巷では別名「海のフォアグラ」と呼ばれていることをお伝えしたい!それくらい美味しいから!

私がこよなく愛するとてもとても美味しいハゲであるが、私にとっては大衆魚的な認識だった。しかし、決してそうではなかった。海に囲まれて育ち、潮風を浴びながら通学した私にとって魚は「頻繁に出てくるもの」である。「ハゲが食べたい。」といえば2〜3日後には食卓に海から直送のハゲの刺身が並ぶ、そんな家だった。私にとって海は大きな冷蔵庫。

「あ、ハゲが食べたい。カワハギ食べたい。」

そう口に出したのはつい最近、海なし県に移り住んだ私だ。スーパーを探す。ない。違うスーパーに行く。ない。そうなると意地になってくる。なにがなんでも食べてやろうとする気持ちがどこからともなく(主に胃袋ではあるが)ムクムクと湧いてくる。ネット通販で探す。あるにはあるが、小ぶりのものばかりで、私が求めているのはこういうのではない。刺身がしっかりと楽しめる大ぶりのものだ。ない。探してもない。困った挙句、魚屋で働く友人に「言い値で買うから!仕入れておくれ!」と頼み込んで手に入れた。ちなみに2匹で3000円ほどかかった。昔ならタダだったのになぁ…。

なにはともあれ、ようやく手に入った立派なハゲ(カワハギ)である。夫に刺身と煮付けにしてもらう。キッチンが魚の匂いと煮付けの醤油の匂いが混ざった空気でいっぱいになる。

その強烈な匂いからくる懐かしさのあまりクラクラした。実家のキッチンは頻繁にこういう匂いを漂わせていたし、今でもきっとそうだろう。魚を手際よく捌く父の姿が目に浮かぶようだった。

さぁ、できたよと、テーブルに並ぶは海なし県でのハゲのフルコース。刺身、煮付け、お吸い物。その全てにハゲ。嬉しいことこの上ない。美味しい美味しいともりもり食べる私と、対照的に夫は少しずつ噛み締めるように食べている。

「なんでそんなゆっくり食べてるの?」

と聞くと

「こんな贅沢なもの一気に食べたら胃がびっくりしちゃうから…。」

と神妙な顔で答えられた。

「え、実家の普段のご飯なんだけど。」

「富豪かよ。」

なるほど、ハゲ富豪ならぬ魚富豪の私であった。