ロールキャベツはトマト味

不定期更新になりました

未体験ゾーンのチョコレート

「今年のバレンタインデーは高いチョコレートです。3500円しました。」

帰宅した夫にチョコレートの入った紙袋を渡してそう告げると、夫は素直に驚いた顔をした。

「もらってもいいの?」

「いいです。でも私も半分食べます。」

まだバレンタインデーではなかったので、食べるのは後にして早速中身を見てみようという話になった。うやうやしくチョコレートの箱を取り出し、テーブルの上に置く。そっと箱を開ける。うおぉ。と夫が驚嘆の声を出す。

「すごく綺麗。」

チョコレートと同じくらいキラキラとした瞳の夫を見ながら私は、そうでしょうそうでしょうと得意な顔をしておいた。そこから、気が済むまでスマホやらミラーレス一眼レフカメラやらで撮影を行い、飽きるまで色んな角度で見た。すでに楽しい。

バレンタインデー当日。夕食を終え、食器を片付けてからチョコレートを食す儀を執り行うことになった。せっかく高いチョコレートを楽しむのだからと、たまにしか飲まない高い紅茶もきちんとポットで淹れることにした。テーブルにお皿と紅茶をセットして完璧。さぁ、食べましょうと夫に声をかけるとキッチンで包丁に熱湯をかけていて「温めてから切ると綺麗に切れます」と説明してくれた。この人、本気だ。

夫が綺麗に半分にカットしてくれたチョコレートの断面をまじまじと見る。外側、内側、底部に色んな状態のチョコレートが入っているのが見える。真ん中にあるのは生チョコレートだろうか。箱に添付されていた各チョコレートの説明書きを見ながらいざ実食。このチョコレートはピスタチオとトンカ豆のものらしい。さぁ、高いチョコレートのお味やいかに。

「美味しい…!世界!」

これは私の発した言葉である。あまりにも美味しくて目からキラキラが溢れるかと思った。口の中で広がる香りの豊かさに驚いた。香水の香りの変化を最初から順に、トップノート、ミドルノート、ラストノートと表す用語があるが、チョコレートにも香りの変化があることを初めて知った。口に入れたときや、舌の上で溶かすときに口の中で広がる香り、喉を通ったあとに鼻に抜ける香りが違う。最初は、グッとチョコレートの苦味を感じるような香りで、次第にピスタチオの風味が強くなり、飲み込んだあとの香りは、その2つが合わさったような余韻のある香りになる。それでいて味も香りもスッキリと終わる。なんじゃこりゃ。とても美味しい。1粒で豪華な作品になっている。味も素晴らしく、ピスタチオの濃厚な旨味を感じながらチョコレートを舌の上でゆっくりと溶かしつつ食べるひとときは、心がほぐれてとても贅沢な気持ちになれた。高いチョコレートが好きな人はこの時間がきっと好きなのかもしれない。

この歳になっても新しく楽しい体験ができるものだと教えてくれたチョコレートだった。そして、高級チョコレートの美味しさを知ってしまった今、新たな沼に入ってしまいそうで少しだけ怖くも感じている。来年はどこのチョコレートを買おうかな。